とあるチャットレディ、その一日の行動に迫る

A子はリビングでノートパソコンを開くと、会話文が表示されるテキストエリアが用意されたウェブサイトにアクセスした。そう、彼女はチャットレディである。相手と楽しく会話することが仕事なのだ。
夫には既に話したし、理解してくれている。そのおかげで、A子はチャットレディとしての自覚を持ち、プロ意識を持って働くことができている。誰にでもできる簡単な仕事ではあるが、相手に楽しくなってもらうためにも、できるだけ丁寧に接したいものだ。
サイトにログインしてしばらく経つと、相手の入室を知らせるインジケーターが点灯した。表示されたのは、見慣れたユーザー名である。いつも通り、チャットレディとしての仕事が始まった。
「やあ、ひさしぶりだね。今日の気分はどう?」
装着したヘッドセットから、馴染みの男性の声が聞こえてきた。A子は微笑み、優しく返事をした。
「今日はお天気もいいですし、いい気分ですね。お客様はいかがですか?」
「ああ、すこぶる良いよ。実は、昨日ゴルフでバーディを3回も取ってね……」
A子はうん、うんと相槌を打つ。以前の彼女であれば、ゴルフに限らず野球やサッカーなど、スポーツに関する知識は皆無だった。チャットレディとして働くようになってから、相手との話題にするためにニュースやネットで詳しく調べるようになり、今では自分自身の趣味とすることもできている。家でできる仕事ではあるが、昔よりも社交的な性格になった。
「いやあ、今日も話せて楽しかったよ。ありがとう」
「いえいえ、またいつでもお話ししましょうね」
A子が話すと、相手は黙り込んだ。
「お客様、どうしたんですか?」
「……いや、私もいい歳だし、いつまで楽しく話せるかと思ってね」
「そんなあ。まだまだ大丈夫ですよぉ、私、あと10年は続けるつもりですから」
「ははは、それじゃあ長生きしなくちゃな。またね」
会話が終わった。
ふと、A子の頬に一筋の涙が流れた。お小遣い稼ぎのつもりで始めたチャットレディ、このようにさまざまな出会いと別れがあるとは、以前の彼女には想像できなかった。

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